世界の信実

20/22
前へ
/253ページ
次へ
少女が座席に到着した時それを狙った様に、 スポットライトの様な白光が、その小さな体躯(たいく)を 照らし出した。 ハレーションの様に華麗(かれい)なシルエットが、 浮かび上がる。 それは少女の頭上で滞空したストラムが発した 光だった。 その一瞬座席でキラリと光る小さな光点が見えた。 少女はその光点に手を伸ばすと素早く掴み駆け出していた。 いや正確には駆け出そうとしていた。 残念ながら少女の足は床には付いておらず、 (もなし)しく宙を泳いで、空中で上下運動を繰り返しているだけだった。 小さな体が浮遊していた。 捕捉(ほそく)されたのか!? (ナビ!!) 僕は心の中で叫びナビを見る。 (すで)にナビは動いていた。 コントロールしたストラムを使い、少女を拘束(こうそく)するストラムに向けて突進させる所だった。 同時に僕を包んでいた無重力フィールドは、 その効力を失い、僕は空中で投げ出されていた。 突然の脱落感と共に、背中に激しい衝撃が走った! 僕は床で悶絶(もんぜつ)しながらストラム同士が衝突(しょうとつ)するのを目撃していた。 ビリヤードの玉の(よう)に衝突したストラムが(はじ)かれ、壁に激突する所だった。 座席の窓を粉砕(ふんさい) し、半場めり込んで止まる拘束者(ストラム)。 その衝撃(しょうげき)粉々(こなごな)粉砕(ふんさい)された黒いガラスの破片が、辺り一面に降り注いだ。 黒い星空が天から落ちて来る様な錯覚に、 一瞬心を奪われながらも、 本能がとっさに腕で目を(かば)って床に()せていた。 ガラスの豪雨(ごうう)が、バリバリと言う床を食い散らかす様な乾いた音をたてて、辺りを包んでいた。 黒き豪雨はすぐに止み静けさが辺りを包んだ。 恐る恐る辺りを見渡すと、 粉砕された窓から日光が射し込み、 床に散らばったガラスの破片を照らしていた。 不思議な事に床に散らばった黒いガラス片は、 バターが溶ける様に透明になって消えていった。 いやそう見えただけで実際には、普通の透明な ガラスの破片となって辺りに散らばっていた。 僕は陸上選手さながらに立ち上がると、 少女に駆け寄っていた。 少女は放心(ほうしん)した様にその場で(うずくま)り膝を抱えていた。  
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

57人が本棚に入れています
本棚に追加