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そしてほんの少しウトウトしただけでもう朝になってしまったらしく、次に僕を目覚めさせたのは朝の光だった。
ベッドにはまだ温もりが残っていたけれど、そこに彼女の姿はなかった。窓からは鳥の声、そして壁の向こうからは料理をする音が聞こえてきた。財布しかなかった机の上に服を見つけて着替えると、僕は寝室を出て音のする方に歩いて行った。
「お早うございま……」
「おう、目が覚めたか」
その声と振り返った顔に驚いて僕がキッチンの入り口で固まってしまうと、その人の方がやってきて僕の胸元を掴んだ。殴られるのかと思って目を閉じると、その人は僕の胸に顔を近づけて匂いを嗅いで言った。
「沙耶香の匂いがする。おまえ、やった?」
それはきっと彼女の名前だ。
「あの……あなたは?」
怯えながら尋ねると、彼は僕を突き放してテーブルの上のメモを顎でさした。
『先に帰ります。戸締まりをしてここを出たら広い道に出て右手にしばらく歩いた所にあるカフェのオーナーにこれを見せて鍵を預けて下さい。帰り方がわからなかったら彼に教えて貰ってね』
どうやら彼女は僕を置いて帰ってしまったらしい。
うん? 帰る?
あれ、ここは彼女の家じゃなかったのかと考えていると男の人がテーブルに料理を運び始めたので、僕は慌てて手伝った。
「あなたがその……カフェのオーナーさん……ですか?」
「そう。そして沙耶香の幼なじみ」
「はあ……」
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