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ああそうか、犬か。今頃気付いた。俺は下部じゃなくてペットなんだ。下部とペット、どっちが上かはわからないけど、ペットの方が幸せかもしれない。
「良い子ね、ハッピー」
「おまえは本当に可愛いな」
幸せな雄と書いてユキオ。それが僕の名前だ。だからハッピーって呼ばれてる。
僕は美術大学の2年生だけど、彼女達と出会った時は新入生だった。広い構内で迷子になっていた所を女帝とその取り巻きに捕獲されたのだ。
『新入生か。可愛い顔してるな。気に入った』
女帝、滝野川桜子先輩は、当時大学3年生、現在4年生だ。言動は粗野なのに何故か気品を感じさせるのは、黄金比ピッタリの美しい顔立ちと、家柄のせいだろう。たまに次元の違う裕福な家庭で育った学生がいるが、彼女はその筆頭だ。高名な画家である祖父の才能を受け継ぎ、画商の父の人脈と経済力に支えられていて、教授でさえ頭が上がらないと言われている。
大学中に彼女の下部がいて、その日から女帝が呼んでるぞと声を掛けられるようになった。無視するとか断るとか、そんな選択肢があるわけがないという口調で見知らぬ人に迫られて最初は驚いたが、もう慣れた。
美術展のチケットは大体貰えるし、一緒にいる時の飲食代も出してくれるし、課題で行き詰まっていると的確なアドバイスをくれるし、彼女に従うメリットは多い。
けれど本気で辛いことも多々ある。
「先輩、もう許して下さい」
「ああ? 何を?」
「僕、もう飲めません。それに……そろそろ帰らないと……」
「泊っていけばいいじゃない」
「いやそういう訳には……」
そこは寮ではないが複数の女子学生がシェアしている小さな一軒家で、男子はその時僕しかいなかった。
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