すべて愛しさのせい

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「佳人」  向かい合うように自分も座り、佳人の両手首を掴んでまっすぐに見つめる。 「正直に答えてくれ」  静かに告げると、佳人は掴まれた手をピクンと震わせた。 「俺に何か言いたいことがあるんだろう?」  佳人はすがるような目で芳崎を見たが、今日は許してやることは出来ない。このままの状態で佳人を放置することは出来ないのだ。 「佳人」   少し厳しい声で言うと、佳人はギュッと目を閉じ、それから小さく頷いた。  そのとき芳崎の胸も大きく跳ね、みっともないくらいに鼓動が乱れた。  まさか…、別れたいとでも言うのだろうか。  そんなはずがない、といくら打ち消しても、その嫌な考えは消え去ってはくれなかった。  佳人がここまで怯えるのは、このあと芳崎に告げる内容がそれなりの重さを持っているからに違いない。  おかしくなったのは、あの日からだ。芳崎が松岡に声をかけられたあの日。自分たちの姿を見て、佳人は何かを感じ、密かに何かを決断したのかもしれない。  もし別れ話だったらなんと言えばいいのだろう。その理由を問い質し、佳人の不安を取り除くべく言葉を尽くすしかない。
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