恋敵

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「おい、お前ちょっと飲み過ぎだろ」  芳崎が重い廣瀬の身体を押し返すと、廣瀬は尚もふざけて芳崎の腕にしがみついてくる。 「やーん、エイジくん冷たーい」  廣瀬の悪ノリに勇次が若干顔を強張らせるのが判った。 「バ、おまっ、そういうのヤメろって言ってんだろッ」  芳崎は必死に廣瀬を引き剥がしながら、勇次に向けて、ハハッとごまかし笑いを見せる。 「あの、冗談ですから、酔うとコイツ、すごい楽しくなっちゃうんで」 「――お二人は、つきあいは長いんですか」  勇次が低い声で問う。不愉快にさせてしまっただろうか。真面目そうな人柄だし、こういう冗談は好きじゃないのかもしれない。  芳崎が焦りながら釈明しようとすると、廣瀬は芳崎の腕に絡みついたまま、「恋人同士でーす」と敬礼するみたいな仕草でとんでもないことを言い出す。 「なッ、お前ナニ言ってんだよ!」  勇次は一瞬目を瞠り、「そうなんですか」と至極真面目な顔で芳崎に訊いた。 「イヤイヤ、冗談ですから、ホント!」  芳崎が廣瀬の頭を軽くはたきながら慌てて否定すると、廣瀬はケタケタと笑い出した。 「ウッソでーす! この色男にはですねー、すんごい可愛い恋人がいるんだよー。もうベッタベタのベタ惚れなんだよ~」 「お前もう飲むな、コラッ、離せッ」  芳崎は強引に廣瀬を引き剥がし、お銚子を取り上げた。廣瀬が次に何を言い出すかと気が気でない。 
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