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しかし、やけに佳人のことが話に出て来るなと思った。
まさか勇次も「こっち側」の人間なのだろうか。それとも毎日佳人を見ているうちに、男に目覚めたとか?
同じ職場で、芳崎よりよっぽど長い時間一緒にいるのだ。惚れた欲目を差し引いても、最近の佳人の綺麗さと色っぽさは尋常じゃない。その魅力にこの男がやられたとしても何の不思議もなかった。
どうしたものか。いざとなったらもう腹をくくって二人の関係をばらすか。でもそんなことをしたら佳人が激怒するかもしれない。
芳崎がぐるぐると考えていると、それを面白そうに横目で見て、廣瀬がまたニヤニヤしている。まったく腹が立つヤツだ。
密かに焦る芳崎の心も知らず、勇次は再び口を開いた。
「じゃあ芳崎さんの方が蓮見と親しいってことですね」
「まあ、悔しいけどそうなるね。いつか割り込んでやろうって思ってるけど、誰かさんが凄い目で睨むからさー」
廣瀬がまたニヤニヤして芳崎をチラ見する。芳崎は頭を抱えた。これではもう、ほとんど芳崎の恋人が佳人だと言っているも同然だ。
芳崎は腹をくくり、勇次からの決定的な質問に答える準備をしたが、勇次はグイとビールを煽ると、幾分座った目で廣瀬を見つめ、
「割り込みたいんですか?」
そこかよ、と思わず突っ込みたくなる問いかけを発した。顔には出ないが実はかなり酔っているのかもしれない。
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