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「えっ、ちょ、待ッッ……――」
廣瀬が閉められた戸に向けて間抜けに手を伸ばし固まっているのを見て、芳崎は思わず噴き出した。
「凄い爆弾落としてったな」
「――」
「まさか、廣瀬がターゲットだったとは」
これまでに見たことのないような、情けない顔で廣瀬が芳崎を見る。
「ああいうのを、一本気な男っていうんだろうな」
廣瀬はまだ衝撃から立ち直れずに言葉を失っている。芳崎は常ならぬ廣瀬の狼狽が愉快でたまらなくなってニヤニヤ笑った。
「どうすんだ、逃げなきゃとっ捕まるぞ。いや、逃げても捕まるな。ああいう目をした男はヤバイ」
「……ど、どういう意味だ」
「頭から喰われる」
「――」
口をアの字に開けたまま目を瞠る廣瀬に、ここぞとばかりに、これまでの意趣返しをする。
そういえば佳人が言っていた。二番板前の勇次という男は、無口だが非常に熱い男だと。
しかしまさかの展開だった。あの数々の不思議な質問は、廣瀬と芳崎が、そして廣瀬と佳人が特別な関係ではないこと、さらに廣瀬が佳人に想いを寄せていないことを確認するためだったらしい。
勇次にとっては、芳崎だけではなく、佳人でさえも恋敵となる可能性があった、という訳だ。
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