恋敵

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 それにしても凄い告白を聞いた。朴訥な感じの男だからこそ、あのストレートな口説き文句がズシンと響くのだろう。それが紛れもない本音だと判るからだ。  飾らない言葉と態度はスマートとは言い難いが、とても男らしいと思った。確かに佳人が言うように、一途で熱い男なのだろう。  密かに内心で感嘆の拍手を送っていると、テーブルの上に置いた携帯が鳴った。佳人からの着信だ。  廣瀬に悪い、と断って、座敷の外に出てから電話に出ると、佳人がホッとしたような声で、今「善さん」と別れたからこれから帰る、と伝えてきた。随分早く切り上げたんだなと驚いたが、いいタイミングだと思った。  自分もこれから帰ると伝えて電話を切る。  座敷に戻ると廣瀬が何故かきちんと正座をして、テーブルをじっと見下ろしていた。 「悪い、廣瀬。佳人がもう帰るみたいだから俺ももう行くわ」  財布から札を数枚引き出してテーブルに置くと、廣瀬は慌てたように顔をあげた。 「ちょ、ひとりにするなよ!!」  心底焦った様子で言うのが面白くて、ニヤニヤしながらポンと肩を叩いてやった。 「じゃな。うまくやれよ」 「ふざっ、お前ッ!」  いつもと立場が完全に逆なのが非常に愉快で、ハハッと笑って座敷を出ようとしたとき、ふと廣瀬の耳が赤いのに気付いて、芳崎はアレ、と思った。  そして、これは案外楽しい展開になるかもしれないなと、密かに口の端をあげたのだった。
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