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芳崎は佳人が料理をしているのを見るのがとても好きだった。手際よく無駄のない動きで、見た目も栄養バランスも申し分のない料理を次々とテーブルに並べてゆくのだ。
なにより細い腰にエプロンを巻いた後ろ姿がたまらなく色っぽい。その色気に負けて健気に頑張っている恋人をキッチンで襲ってしまい、そのあとしばらく口を利いてもらえなかったことも正直に言えば、何度かある。
けれどそんな時も佳人の目はちらちらと芳崎の方を窺っていて、こちらが静か過ぎると不安そうな気配が伝わって来るので、芳崎は可哀想になってちょっと強引に抱き締める。
すると佳人はホッとしたように身体の力を抜き、けれど次の瞬間怒っていたことを思い出したようにもがいて見せるのだ。
一連の心の動きが手に取るように伝わってくるのが可愛くて、たまらなくなってまた強く抱き締める、というようなことの繰り返しだった。
こんな二人の遣り取りを廣瀬あたりに知られたら、まったく見ていられないといった呆れ顔をされるのがオチだ。
自分でもこれほど誰かに夢中になるとは思わなかった。佳人と出逢ってから、恋愛とは理屈じゃないのだと改めて思い知った気分だ。
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