愛しい林檎

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 思いがけずその願いは予想よりもずっと早くに叶えられた。電話が切れてから二十分もしないうちに玄関ドアが開く音がして、芳崎は驚いて立ち上がった。 「佳人か? ずいぶん早かったな」  急いで玄関の方へ向かおうとすると、再び芳崎の携帯が鳴った。ディスプレイを見ると誠からだ。 「はい」  応答しながら玄関を見ると、佳人が俯き加減で入ってくるのが見えた。スーパーに行くと言っていたのに、手には買い物の袋もない。 『あ、芳崎さんですか。誠です。あの、兄さん帰ってますか?』 「ああ、今帰ってきたところだ」 『良かった、さっきまで一緒にいたんですけど、ちょっと席を外して帰って来たら急に様子がおかしくなって。熱でも出たんじゃないかと思って、すぐ帰るように言ったんです』  ふと見ると佳人が何故か顔を隠すように風呂場のほうへと入ってゆく。芳崎は慌てて追いかけて、佳人の腕を掴んで振り向かせた。  佳人は最近は落ち着いているが、過換気の発作を何度も起こしている。何か心的ストレスでもあって、急に気分が悪くなったんじゃないかと心配になったからだ。
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