すべて愛しさのせい

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 さっきから佳人をチラチラと盗み見ていく者たちがいることにも気付いていた。恋人の欲目を差し引いても、佳人はかなりの美形だ。それも女性、男性を問わずに惹きつけてしまう、恋人としてはいささか、いや、かなり心配になってしまう類の魅力を持っていると言っていい。  たまにそれを本人に言ってみると、一体何を言うのかという顔をして、まるで信じようとしないのだが、それは佳人がいつも人前で俯いていることが多いから、単に気付かないだけなのだ。  ゆっくりと歩み寄ると、まるで雑踏のなかで、芳崎の足音だけを聞き分けたみたいに佳人が顔をあげた。そして芳崎の姿を認めると、パッとその顔が明るく輝く。  それは目にも鮮やかな変化で、俄かに芳崎の胸は熱くなった。はにかむ可愛い顔は、佳人が芳崎にだけ見せる顔だ。それがたまらなく嬉しい。 「待たせたか」 「ううん、全然」  佳人は立ち上がると、先ほどまでの不安そうな様子を微塵も感じさせずに首を振る。  その頬が微かに桃色に染まっているのがまた可愛くて、たまらずに手を伸ばす。  すべすべした頬を愛でるように指の背で撫でると、佳人はびっくりしたように目を見開いた。それで芳崎もここが駅前広場のど真ん中だということを思い出す。  照れ隠しで佳人の結った髪の先をいつものように撫で上げると、佳人も恥ずかしさを隠すみたいに笑った。
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