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思えばいつも置いて行かれるばかりの日々だった。そばにいたいと思う人に出逢っても、彼らはいつのまにか別の人の手を取って、佳人を振り返ることなく去っていくのだ。
心細かった日々を思い返しながら、少し離れた場所を歩く芳崎の背中を見つめる。
もしこのひとを失ったら、自分は生きていけるだろうか。
そんな想像だけで、簡単に胸が凍りつく。無理だと思った。きっと呼吸さえ出来なくなってしまう。
けれどこのまま自分のそばにいたのでは、あまりにも芳崎がもったいないと思うこともしばしばだった。芳崎は女性を愛することも出来る。世話好きで心根が良く、誰よりも温かい心を持つこのひとなら、明るく幸福な家庭を築くことだって出来るはずだ。
芳崎に優しくされるたびに、そんな未来を自分が奪っているような罪悪感に何度も捕われた。幸福な一組の家族を、この世界から自分が消してしまうようで怖かった。
なのに芳崎の手を離すことは、もっと怖い。こんなに優しくされ、慈しまれた後では、失った時に自分がどうなってしまうのか判らない。
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