これからの季節を、ずっと 4

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「ごめん。遅くなって」  閉じかけたシャッターの前。白い息を吐く蒼太の言葉に首を振る。  言いたいことはたくさんあった。あったはずなのに……私は声を出すこともできない。 「やっと仕事も落ち着いて、住む所も見つかったから。だから……」  人々のざわめきも、どこからか流れてくる音楽も、今は何も聞こえない。ただ蒼太の声だけしか。 「やっと琴音を迎えに来れた」 「……うん」  小さくうなずいて手を伸ばす。冷たくなった蒼太の手を取り、ぎゅっと握りしめる。 「やっと、一緒にいられるね」  ――ずっと一緒にいたい。それだけでいい。  十七歳の夏。ふたりで願ったことはそれだけだった。  たったそれだけのことなのに……私たちは、ずいぶん遠回りしてしまった。
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