プロローグ

2/5
前へ
/236ページ
次へ
 海が見渡せる丘の上に私たちの高校はあった。  地方にある海辺の小さな町。小学校は二つ、中学校は一つ。そしてその生徒たちのほとんどが、町に一つあるこの県立高校へ通う。  激しい受験戦争も経験せず、おだやかな町の雰囲気と同じように、この学校へ通う生徒も教師もどこかのんびりとしていた。  通学手段はほとんどが自転車。町のどこから通っても、学校へたどり着くには坂道をのぼらなければならない。  だけどそれが当たり前な私たちは、文句も言わずに毎朝自転車を押しながら、長い坂道をのぼった。  学校帰りに遊ぶ場所もなく、放課後は部活に打ち込み、友達とのおしゃべりを楽しむ。そんな毎日。  その頃の私たちはまだ、目の前にある美しくて狭い世界しか知らなかったのだ。
/236ページ

最初のコメントを投稿しよう!

508人が本棚に入れています
本棚に追加