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つないだ手がほどかれる。そっと動いた蒼太の手が、私の背中を抱き寄せる。
ふんわりと優しく。つらかったことも哀しかったことも、蒼太の知らなかった私の十年も、全部すべて包み込むように。
「あったかい……」
蒼太の胸でそうつぶやいたら、私を抱きしめる手に少しだけ力を込めて蒼太が言う。
「このまま連れ去ってもいい?」
ふふっと笑って、私は蒼太の体をそっと離す。
「ごめんね? まだ勤務中なの」
「ムードないなぁ」
苦笑いする蒼太に笑いかけ、ふと顔を上げる。
「あれ?」
額に触れる冷たいもの。
「雪?」
「ほんとだ」
ふたり同時に空を見上げる。ビルの隙間の黒い空から、白い雪がはらはらと舞い落ちてくる。
ああ、前にもこんなことあった?
顔と顔を寄せ合って、ドームの中に降る雪をふたりで見つめた。
ぎこちなく手を握り合いながら、季節外れだね、なんて言って笑った。
そんなことを思い出して視線を下げると、私のことを見ていた蒼太が小さく微笑んだ。
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