プロローグ

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「琴音が呼ばないなら私が呼ぶよ。おーい、蒼太ー!」 「あ、ちょっと、紗香……」  紗香が両手を高く上げて、それを大げさに振っている。周りの女の子たちがくすくすと笑い出す。 「お、蒼太選手、こっち見ました!」  紗香のおどけた声を聞きながら、私も校庭を見下ろした。  青く晴れた空の下、スタートラインに立った蒼太がこちらを見上げ、すぐに照れくさそうに顔をそむける。 「あ、蒼太、照れてる。かわいー」 「琴音の顔見たからだよ」 「違う違う、そんなんじゃないって」 「ねぇ、いつから付き合ってんの?」  女の子たちの声に混じって、短いホイッスルの音が鳴る。  窓の外へ視線を戻すと、蒼太が走り出したところだった。 「やっぱ蒼太、速いよねぇ」 「小学校の頃から速かったもんね」  知ってる。町中の人たちが集まって行われる町民運動会で、蒼太は毎年リレーの選手だった。  自分よりも年上で体の大きな人たちを、次々と追い抜いていく小学生の蒼太。私はいつもその姿を、遠くから見つめていた。 「ねぇ、琴音。どっちから告白したのよ?」  女の子たちの声と、ばらばらに響く楽器の音。それを聞きながら、私は蒼太の姿を追いかける。
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