プロローグ

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プロローグ

Prologue  音無颯太(おとなしそうた)は職員室で困惑していた。 「ええっと、つまり部活を創りたい、と」 「はい」  目の前の男子生徒は至って真剣な表情をしている。黒髪に眼鏡と、外見も普通だ。  音無には彼の名前が分からなかった。男子生徒の胸には一年生の証である赤のピンバッジが光っているが、少なくとも自分の担当しているクラスの者でないことは明白だった。 「お忙しいところすみません」 「いや、それはいいよ」  音無はデスクの上に広げていた教科書やファッション雑誌を端に避ける。 「それにしても、まだ入学したばかりだというのに随分と活動的なんだね」  今は五月。一年生が入学してからひと月ほどしか経っていない。 「はい。こちらも成果を出さなければと思いまして」 「大学の推薦でも狙っているのかい? だけど……」  音無は申請書を見て唸った。  男子生徒が創設しようとしている部活は弓道部……だと思う。 「君、悪いけど弓道部の字が違うよ」 「いいえ、それで合っています」  申請書に書かれていたのは弓道でなく〈求動〉。動きを求めると書いて求動(きゅうどう)と読ませているのだ。 「これは具体的に何をする部活なのかな」     
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