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職員室の壁掛け時計を見ると、HRの時間までもう五分と無かった。余裕を持って登校してきたはずなのに、迷子になっていた時間が予想以上に長かったらしい。
僕は音無先生と共に二階へ上がり、一年B組の教室まで向かった。
ゆっくりとドアを開ける。
中に入り教壇に立つと、クラス中の視線が突き刺さる。震える手でチョークを持ち、名前を書いている間も僕はずっと緊張していた。
「お、大宮夏彦です。ここに来る前は遠くの県の公立校に通っていました。引っ越しが決まったのが五月の頭と急だったもので、スタートは皆さんより一カ月遅れることになりますが、よろしくお願いします」
お辞儀をすると、拍手が鳴り響いた。少し挨拶が硬かったかな……と思いながら顔を上げると、クラスメイトたちは明るい顔で僕を見ていた。良かった、悪い印象は与えなかったらしい。
「じゃあ席は……」
「センセー!」
一人の女子生徒が大きく手を挙げた。
あれ、あの子は。
「センセー! 私の隣、空いてます!」
彼女はにっと白い歯を見せる。
「じゃあ大宮君は咲園さんの隣でいいかな。ええっと、配布物を配ります。今日は……」
まさかこんなベタな展開になるなんて。
僕は咲園さんの隣の空席に座った。
「大宮君、また会っちゃったね」
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