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咲園さんはバッグから次々と教科書を取り出し、「ちゃんと見せてあげるからね!」とフンフン意気込んでいた。まるで犬みたいだな、なんて失礼かな。
「分からないことは何でも聞いてね!」
「ありがとう」
僕は配られるプリントをまとめながら窓の外を眺めた。窓際の後ろから二番目、結構良い席だ。
「平和な高校生活になりそうだな」
僕はそう思っていた。
少なくとも、その時までは。
*
「部活動ですか?」
「あぁ。一応見ておいた方がいいと思って」
氷ノ宮学園での初日を難なく終えた僕は放課後、職員室に呼び出されていた。
「部活動は強制ではないけど、うちは文化部、運動部共にそれなりの実績を残しているんだよ。この学園には――」
「あの」
僕には高校デビューをするにあたって、決めていたことがひとつある。
「すみませんが、遠慮します」
「どうしてだい?」
音無先生は不思議そうに首を傾げる。
「中学の頃はひたすら部活に打ち込んでいたので、高校ではもっと自由に時間を使いたいと思って」
「あぁ、なるほど……」
歯切れの悪い返しだった。その理由はなんとなく分かるが、これは僕の問題だ。
「残念だな、パンフレットもいくつか用意しておいたのに」
「ごめんなさい」
「いや、いいんだ。放課後の時間をどう使うかは君の自由なのだから」
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