0人が本棚に入れています
本棚に追加
フェンスの無い屋上は見晴らしが良かった。煌々と輝く夕日に照らされて、幻想的な雰囲気を醸し出している。
走り去って行く電車も、真新しいオフィスビルも、ここから見れば小さく感じる遠くのショッピングモールも、屋上からは全部見渡せる。
僕はその景色にすっかり魅入られていた。どうして屋上の鍵が開いていたのかなんて、もうすでに些細な問題と化していた。
あ、だけど誰かに見つかったらさすがにまずいよな……
「だ、誰もいないよね……」
ゆっくりと周囲を見回す。右よし、左よし、後ろよ――
「うわああああっ!」
振り向いた瞬間、僕はその場に腰を抜かした。
後ろにある貯水タンクの上に、誰かが座っている。
必死に目を凝らす。氷ノ宮の制服、風になびく金色の髪、その二つの目は僕なんか気にも留めず、じっと前を見つめている。
女子だ。煙草を吸っている気配も無いし、不良ではないのか?
「あ、あのー……」
彼女に僕の声は届かない。いや、あえて無視をしているのかもしれない。
ゆっくりと彼女は立ち上がる。僕は何故だか、彼女から目を離せないでいた。金色の髪を、目を、もっと近くで見てみたいと思うのは、一体何という感情からくるものなのだろう。
貯水タンクの上で凛と仁王立ちした彼女は、ゆっくりと〝それ〟を持ち上げた。
「あれは……」
最初のコメントを投稿しよう!