キュウドウブ! 1本目①

9/11
前へ
/99ページ
次へ
 フェンスの無い屋上は見晴らしが良かった。煌々と輝く夕日に照らされて、幻想的な雰囲気を醸し出している。  走り去って行く電車も、真新しいオフィスビルも、ここから見れば小さく感じる遠くのショッピングモールも、屋上からは全部見渡せる。  僕はその景色にすっかり魅入られていた。どうして屋上の鍵が開いていたのかなんて、もうすでに些細な問題と化していた。  あ、だけど誰かに見つかったらさすがにまずいよな…… 「だ、誰もいないよね……」  ゆっくりと周囲を見回す。右よし、左よし、後ろよ―― 「うわああああっ!」  振り向いた瞬間、僕はその場に腰を抜かした。  後ろにある貯水タンクの上に、誰かが座っている。  必死に目を凝らす。氷ノ宮の制服、風になびく金色の髪、その二つの目は僕なんか気にも留めず、じっと前を見つめている。  女子だ。煙草を吸っている気配も無いし、不良ではないのか? 「あ、あのー……」  彼女に僕の声は届かない。いや、あえて無視をしているのかもしれない。  ゆっくりと彼女は立ち上がる。僕は何故だか、彼女から目を離せないでいた。金色の髪を、目を、もっと近くで見てみたいと思うのは、一体何という感情からくるものなのだろう。  貯水タンクの上で凛と仁王立ちした彼女は、ゆっくりと〝それ〟を持ち上げた。 「あれは……」     
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加