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真っ白な弓。
風で乱れた金髪を整えることもせず、彼女は静かに、矢を構える。
気付いた時にはもう、僕は走り出していた。ぐるりと貯水タンクの後ろに回り、梯子を上る。
「ダメだ!」
ダメだ、ダメだと僕は叫ぶ。
その言葉によって彼女が思い止まるのかどうかは分からない。それでも云わなきゃ、伝わらない。
「弓矢を! そんな使い方しちゃ! ダメ、だっ……うわぁっ!」
ずる、と右足が落ちる。
そのまま体はぐらりと傾いた。梯子を掴む手に力を入れたが、遅かった。
一瞬の浮遊感。
あ、これ、落ちる――
そう思った僕の手を、誰かが強く掴んだ。
「あ……」
逆光の中でも分かる美しさだった。金色の髪、色白の肌、青と緑のオッドアイ。
彼女は、軽々と僕を引き上げた。
「あ、ありがとう……」
「うん」
会話が途切れる。ええっと、こういう時、何を話せばいいのだろう。
「ぼ、僕は一年B組の大宮夏彦です! あの、僕は今日、転校してきたばかりで、校内探索をしていたらここに来ちゃったっていうか……」
うわ、自分のことばっか話しちゃってる! こういう男は嫌われるってこの間テレビで云ってたぞ!
「き、君は? 君の名前、教えて!」
「ロエル」
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