0人が本棚に入れています
本棚に追加
感情の籠っていない声だったけど、僕にとっては天使の囁きの如く純なものに感じた。
「どうして?」
「え?」
ロエルさんは真っ直ぐと僕を見た。
「どうして、ダメ?」
ロエルさんは弓を掲げる。あぁ、どうしてさっき「ダメだ」と叫んだのか、訊いているのか。
「えっと……それ、見た目的に弓道の道具だよね? 真っ白な弓って珍しいけど、最近はオーダーメイドって手もあるか……あっ、そうじゃなくて。僕は、弓道の道具を正しく使って欲しかっただけなんだ」
「正しく?」
「弓道は街を射る競技でも、夕焼け空を射る競技でもない。君には、そんな使い方をしてほしくないと思っただけだ」
「ごめんなさい」
「えっ!? い、いや、あの、別に怒ってるわけじゃないから! 謝らないで! むしろ僕の方が結構凝り固まった考えしてると思うし……こちらこそ、ごめんね。初対面でこんな話しちゃって」
「私は、いい」
ロエルさんはずっと無表情だった。
沈黙が僕らを包む。何か話さなきゃと思えば思うほど言葉に詰まる。その間も鮮やかな夕日はどんどん沈んでいき、気付けば辺りは薄暗く、空は気味の悪い紫色に染まっていた。
「帰る」
「え? あ、ぼ、僕も帰るよ!」
僕はロエルさんと二人、屋上を後にした。
最初のコメントを投稿しよう!