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彼が職員室を去ろうとした時、ふと音無は疑問に思っていたことを口にした。
「君、どうして先生のところに申請書を持ってきたんだい? 君は先生が担任をしているB組の生徒じゃない。そして多分、授業も受け持っていないと思うんだが」
音無は担任をしているクラスの生徒はもちろん、授業を受け持っているクラスの生徒の顔と名前は記憶している。記憶力は小さい頃からの自慢だった。
男子生徒は振り返る。彼は冷たい表情をしていた。
「先生、賭けをしませんか?」
「賭け?」
「もし、今月中に音無先生が想い人と結ばれたら、俺たちの顧問になってください」
「はぁ?」
何を云っているんだ、この子は。
「どうしますか。この賭け」
「君、先生をからかうのもいい加減に――」
「骸骨館(がいこつかん)」
音無は息を呑んだ。
彼はもしかして、知っているのか?
「さ、どうします?」
その時初めて、男子生徒が笑った。
その笑顔は決して喜や楽を表したものではなく、挑発的で、嘲笑うかのようだった。
音無は魚のように口を開閉し、にやにやとほくそ笑んでいる男子生徒を睨んだ。
「……あぁ、いいだろう。出来るものならやってごらん」
「交渉成立だ」
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