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キッチンに立っていた母がにっこりと微笑む。
僕は席に着き、白米と卵焼きを頬張った。朝の天気予報によれば、今日は一日晴れ模様らしい。
「ごちそうさま!」
「あら、なっちゃんってば今日は元気ね」
「まぁね」
食べ終わった食器を片づけ、僕は身支度を整える。
中学時代からずっと学ランだったから、ブレザーにはなんだか違和感があった。さすが私立校、もさっと田舎臭いボロボロの黒学ランとは比べものにならないくらいオシャレな制服だ。
「定期は持った? 電車の時間は分かってる?」
玄関まで見送りに来てくれた母は、心配そうに問いかける。
「大丈夫だよ。ってか、何で今日はそんなに心配性なの?」
「だって……お母さんのせいで、なっちゃんには大変な思いさせちゃったでしょ? せっかく入学式が終わって『さぁこれからだ』って時に……それに、部活だって……」
「母さんのせいじゃないよ。そもそも父さんの仕事の関係だったし。別に何かを恨んでるわけじゃないから、安心して」
いってきます、の一言で会話を区切り、僕は家を出た。
辛くなかったと云えば嘘になる。入学式を終え、勇気を出して話しかけた数名のクラスメイトと、やっと打ち解けてきたって時に引っ越しだなんて。
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