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もうガマンがならないと、姉ちゃんは両のこぶしをテーブルについて、こちらに身を乗り出していた。さあ、ツーアウト満塁、後を追う横浜には逆転のチャンスですが、ピッチャーにとっては正念場ですよ、さあどうでますか? 解説の村田さん。とテレビの実況中継が鳴りひびく。
ぼくも姉ちゃんも野球に興味がない。でもテレビをつけていないと、二人だけの食卓は場がもたなかった。なんとなく野球にしたのは、いつも父さんがそうしていたからかもしれない。母さんが家出をしてから、もう三カ月になる。父さんは、相変わらずかえりが遅い。
ぼくと姉ちゃんは、もともとそんなに仲の悪い姉弟ではなかった。むしろよいほうだとおもう。でも、母さんが家出をしてから、つまらないことでケンカをするようになった。光の波長と国際サンタクロース協会で一カ月口をききませんとか、ほんとくだらない。出口の見えない消耗戦だ。まるで家のなかで迷子になってしまったような気分だった。
「べつに、イライラなんかしてない」
ぼくはうそをついた。
「あ、そう」
姉ちゃんはドスンッとイスに腰をおろした。座った勢いで、もくもくとマーボ豆腐をくらう。
いつからだろう――。いつから、テレビをつけないと、姉ちゃんと一緒にいることすら息苦しくなったんだ? ぼくは、いつも姉ちゃんと何の話をしていたのかすら、わからなくなっていた。母さんと父さんの話題を避けようとすればするほど、何を話せばいいのかがわからなくなった。
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