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食器の音だけがカチャカチャと食卓にひびく。玄関先、金魚ばちの出目金、タロウにエサをあげてないなあ、とぼんやりおもった。去年の夏まつりの屋台で、ぼくと姉ちゃんがとった戦利品だった。塩素をぬく薬にぱくぱくとあえぐ、空腹のタロウをおもった。
「あんた、グレるなら今のうちよ」
ムスッと姉ちゃんがそんなことをいった。
「母さんと二人きりになったら、あんたにそんな度胸ないもの」
辛い。このマーボ豆腐、辛すぎだ。作った姉ちゃんに腹がたった。たぶん、今ならカレーが辛くたって腹がたつ。かといって、星の王子さまでもきっと腹がたつ。
テーブルをなぐりつけた。食器が、ガシャンとはねあがる。
「なんだよ、それ。グレたいのは姉ちゃんでしょ? なんでもかんでもぼくに押しつけて、自分はオトナみたいな態度をするのはいいかげんやめてよ」
父さんと母さんは離婚する。そう決まってから、母さんは家を出ていった。一秒たりともこれ以上、父さんと同じ空気を吸っていられなかったらしい。
姉ちゃんとも、夏休みがおわるころには離ればなれだ。母さんと暮らすことになったぼくは、一学期がおわるのを待ち、母さんと一緒に滋賀のおばあちゃんのところへ引っ越すことになっている。
姉ちゃんは父さんと暮らすことをえらんだ。せっかく入った高校も転校したくないし。大学にもいきたいし、お金は必要だもの。父さんといたほうがお金には困らないから、と姉ちゃんはいったが、本当のところはよくわからない。
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