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 ぼくは上げた腰をもてあまし、座るわけにもいかず、中腰のまま姉ちゃんをにらみつけていた。  姉ちゃんは、ゆっくりとハシをおくと、 「あんたひどい顔してる。その顔、前にも見たことあるよ……サドルとられたときみたい。五、六年前に自転車のサドル、盗まれたことあったでしょ」といった。 「おぼえてない」  またうそをついた。全身から、ヌメっといやな汗がふきだし、イスにへたれこんだ。 「あったわよ。あんた大騒ぎして、泣きながらかえってきたんだから」  そのことはおもい出したくなかった。犯人はいまだにわからないけど、当時のクラスメートの誰かだったとおもう。野球の実況中継がとおざかり、耳鳴りがした。試合の開始をつげるあの日のサイレンの音が、ウーときこえる――。  小学生の頃。自転車に乗って、県営の野球場にみんなででかけたことがあった。たまに二軍の試合をしていて、その日も巨人の二軍がきているというので観にいったのだ。もちろんチケットを持っていないぼくらは門前払いだったし、そもそも巨人の二軍の選手なんて知らなかったし、野球場にこれただけで、みんな満足していた。     
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