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姉ちゃんは高校生にもなって、サンタクロースを信じていた。フィンランドやグリーンランドにサンタクロースのおじさんは本当に存在するって話だけど、空とぶトナカイはさすがに飼育していないだろうし、クリスマスイブの夜、毎年律儀に枕もとへプレゼントおいていく酔っぱらいのおっさんと同一視するのはいかがなものか、とうったえた。
姉ちゃんは冷静に「そんなのうすうす感づいてたわよ」といった。世界にはサンタクロースのボスから任命された子分サンタが一二〇名以上いるの。知ってる? その名も国際サンタクロース協会よ。もしかしたら……万が一にもってあるじゃない。子分サンタでもいい。父さんの正体が、サンタクロースだったら素敵じゃない、と姉ちゃんはプレゼントにもらったブサイクなクマのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。
こんなふうに復讐はかなしみしか生まない。大人になるって、現実をひとつ知り、何かをひとつ失うことのくり返し、と姉ちゃんはさみしそうにいう。姉ちゃんだって、まだ立派な子供だろ? というツッコミはさておき、つまり子供へのプレゼント代すら経費で落とそうとする大人に、ぼくも姉ちゃんもまた一歩近づいてしまったということだ。
ぼくと姉ちゃんの冷戦状態はこうしてはじまり、一言も口をきかないまま、まもなく一カ月になろうかという日。ぼくは昼休みの教室で二次災害をおこしてしまった。
「そっか。空の色って、海の青じゃなかったのかあ」
親友の上田佑二がすっとんきょうな声をあげた。ひらがなの「あ」みたいな顔をして空を見あげている。
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