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須藤さんの声は、今にも消えてしまいそうだった。それでも返事をしない佑二。須藤さんはずっとスニーカーのつまさきを見つめている。金魚ばちに入れられた出目金って、たぶん今のぼくと同じくらい息苦しいんだろう。自分の家の玄関先で飼っている出目金のタロウの気持ちをとつぜん理解した。
目のゆき場にこまり、
「ほら、佑二にはなしがあるんだって」
須藤さんからかくれるように、ドンと佑二の背を押した。
「あ……うん」
心あらずな返事をする佑二に、
「先にかえってるから。うん、じゃあ!」
と意味もなく振り上げた右手を、雨よけ屋根の桟にしたたかにぶつけ、マヌケな声を張りあげてしまった。
「佐江山くん、手!」と口をおおう須藤さんに、ダイジョウブ、ダイジョウブと、まわれ右をした反動で斜めがけカバンのひもが誰かの自転車にひっかかり、たおれかけ、チリンと呼び鈴がかわいくなった。カバンのひもに宙づりになった自転車を、あははと笑いながら立て直し、失礼しました! とそのまま一目散に駆け出した。駆け出すというより、逃げ出した。
走りながら、ぐっと奥歯をかみしめていた。何だよ……ぼく、めちゃくちゃカッコワルイじゃないか。すっごくお腹がすいて、すき過ぎて、全身から血の気のひいたような感覚だった。なのに胸から上はカーッとのぼせている。ぶつけた右手はたいしたケガじゃなかったけど、じーんとしびれつづけていた。
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