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「ちょい待て。なんでおまえがヒナが観たがってる映画なんて知ってるんだよ。」
「朝の教室は憩いの場だからな。今日のうちのクラスのお話テーマは『映画』だったんだよ。あ、毎日朝練ごくろう。」
「~~~…。」
「そう睨むなよ。朝から武道に勤しむおまえのために、ちゃんと情報仕入れといてやったんだからな。」
「…黙れ。恩着せがましい。」
「じゃあ、聞かない?」
「…………聞く。」
眠気を振り払うように軽く頭を振り素直に立ち上がる瀬戸を見ながら、少し不覚ではあるものの改めて感心する。目の前の嵐製造機みたいなこの悪友の、これほどまっすぐに誰かを大事に思えるところは単純にすごい。
スマートにキメて「男らしさ」を語るような奴よりもよっぽど、瀬戸の芯は強い。…アホだけどな。
今日も放課後は選抜決めの試合なのだから昼休みに暴れて無駄な体力を消耗するなと、もはや「オカン」ばりの忠告を行っていた林田のことはすっかり忘れているらしい瀬戸は、ずるずるとおれをバスケットコートに向かって引っ張っていく。完全に戦闘モードに切り替わった表情で。
あの進路懇談の日に見た教室の窓からの風景を思い出しながら、おれは自分の無鉄砲な選択もそう悪くはなかったなと思う。なんとなく決まりかかっていた自分の幅を跳び出してみたら、思っていたよりもおもしろい奴らと出会えた。
合格発表の日、おれよりも引きつった面持ちで恐る恐る掲示板を覗き込んでいた角刈りの担任に、もう一度親指を立ててサンキューと言いたい気分になった。
腕力じゃなく、見た目のキレイさじゃなく、人のために必死になったり、本気でうろたえたり、時にはカッコ悪くもなれる人間がきっと本当は強いのだ。
なんとなく見上げた突き抜けるような青い空に、飛行機が引いていく白い線がまっすぐに伸び、鮮烈に残った。
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