Hina Side3:幼馴染みの功名

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家の前まで来たときに、やっと夕希の顔をちゃんと見た気がした。 夕希は私が門に手を掛けたのを見て、ほっとしたように微笑んだ。 その顔を見て、咄嗟に「ありがとう。」という言葉が口からこぼれた。 背を向けて学校への道を戻ろうとしていた夕希は、弾かれたように振り返って、不思議そうに私を見た。どうして夕希が不思議そうにするのか私にはわからなかった。 確かに夕希にお礼を言うことなんてめったにないけど、今日はこれ以上何も言えない。 何に対しての「ありがとう」なのかはもう私にもよくわからない。 よくわからないほど、私は夕希に言わなければならない。 こんな一言じゃ足りないのに、これ以上何も言えなかった。 夕希は困ったように微笑んだ。いつもの、完璧な笑顔じゃなくて、少し戸惑ったような、夕希にしては不器用な笑顔だった。少し傾いてきた太陽のせいか、目元が仄かに赤く見える。 「礼なんて言わなくていいのに。おれがついてきただけだし、昔はいつも一緒に帰ってただろ。・・・じゃあね、ヒナ。」 そう言って夕希は軽く手を振り、来た道を軽やかに走って戻っていった。あっという間に小さくなっていく夕希の背中を見送りながら、早く寝よう、と思った。 きっと今なら、不安にならずにぐっすり眠れるだろう、そんな気がした。 ぐっすり眠って、明日はちゃんと元気になって、元気になったら、たまには夕希の宿題を手伝ってあげてもいい。朝練に遅れないように早めに起こしに行ってあげてもいい。今日貸したパン代は忘れてあげてもいい。 何かしょうもないことでいいから、明日は私が夕希を喜ばせたいと思った。
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