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「ねえ、夕希。これなんかどうかな?」
ヒナは雑誌のページをめくりながら嬉しそうにおれに尋ねる。
開かれているページは、「春のイメチェンヘアスタイル特集」。
指さしている写真のモデルが黒髪なのと、ヒナよりもやや長めのヘアスタイルであることとが悪い予感を煽る。いや、これはもう「予感」ですらない。
「・・・どうと言われても。ヒナ、髪型変えたいの?」
さっきまで浮かんでいた懐かしい思い出に縋るような気持ちで精いっぱいの抵抗を試みる。祈るような気持ちで。
ヒナが自分の髪型を変えるための相談をしてきてくれているのだったら、この現状を差し引いたとしてもなかなかに幸せだから。
しかし、ヒナは容赦なくその祈りを却下した。
「私じゃないよ。夕希が髪切るんなら、こんな感じがいいかなと思って。」
「・・・・・。」
何かがざっくりと体に刺さるように感じる。
こんなやり取りはもはや日常茶飯事で、今に始まったことじゃない。
でもおれは毎回新鮮なダメージを受け続けている。
責任の一端は自分にあることがわかっているから尚更むなしい。
空手の練習でたまにくらう寸止め損ねの一発よりも、重くめりこむ。
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