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その高校生に呼び止められたのは2週間後の早朝だった。
それまでにも何度か同じ場所で彼がバス待ちをしているのを見かけていたが、向こうから声を掛けてきたのはもちろん初めてだった。
その日は朝稽古で早朝から叩き起こされ、ヒナと一緒に登校することもできず、ただでさえ朝に底辺を辿るおれのテンションはもはやマイナスの高度を保っていた。
そこへきて最近よく見る見たくもない姿。一刻も早く通り過ぎようと足を速めるおれを、彼は緊張した面持ちで呼び止めた。
「・・・あの、最近よく会いますよね。」と、彼は言った。
いや、おれは会いたくない。あんたが家の前の一本道の端に立っているから、通過せざるを得ないだけだ。怪訝そうな顔をして黙っていると、相手は意を決したように話し続けた。
「実は、きれいな子だなって思って、ずっと気になっていたんです。もし、良ければ・・・。」
ここまで聞いて、やっと事情が分かった。
朝稽古の前に喧嘩を買って余計な体力を消耗する必要はなかったようだが、これはこれで厄介で、朝から気分が悪い。
考えようによっては、手の込んだ新手の喧嘩の売り方なのかもしれない。
おれはむりやり笑顔を作って言った。
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