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「ありがとうございます。でもおれ、好きな子がいるので。」
にっこりと微笑むと相手は一瞬呆けた。
この言い方でどこまで気づいたかはわからない。
わかっていての一大決心だったのかもしれないが、おれは私服高校生だし、さっきの言い方からするとおそらくおれの本「性」には気づいていなかったのだろう。
まあ、どちらにしてもおれには関係ない。おれにとっての問題は「そこ」ではない。
「それに」相手が次の言葉を探している間におれは言った。
「趣味悪い人って、好きじゃないんで。」
相手の表情を見ることなく背を向けた。
最後までは言わせなかったのだから、相手にとっても黒歴史にならない余地はあるだろう。記憶から抹消したければすればいい。おれは、する。
彼は彼で気の毒だが、これに懲りて人を見る目を少しは養ったほうが今後のためだ。趣味が悪い。見る目がなさすぎる。ヒナ、なんであんな奴に憧れちゃうんだよ。
憤然と歩きながら、ヒナの嬉しそうな顔を思い出してみぞおちの辺りがやけに重くなる。
ヒナと一緒にいたのに、おれの方に目を奪われるなんて、性別云々を抜きにしても壊滅的に見る目がなく、趣味が悪い。そんな奴は言語道断だ。
でも、それでもヒナを見てくれる「見る目のある」奴が現れたら、その時こそ、おれはどうするつもりなんだろうか。
ずっと考えることを放棄し続けている自分に呆れる。
良いのかと聞かれれば、良いわけがない。
良いわけはないが、だめだと言い切れないのも自分自身。
忘れるな、と声が響く気がする。あの日「決めたこと」を、忘れるな、と。
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