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夢を見る。
あまり見たくない夢だ。
静まり返った病室。清潔すぎる作り物みたいな空気。
ヒナのおじさんは眠っているみたいだった。
今にも起き出して、大きく伸びをして、ヒナに向かって優しく笑いかけて、それからおれに気づいて、
「おお、夕希か。おまえまた空手の練習さぼったらしいじゃないか。さすがだな、この3日坊主キング。」なんて笑い出しそうだった。
でも、どれだけ待ってもおじさんの目は開かない。よく通る声も響かない。
自分の心臓が不自然なほど耳元で鳴り響いていなければ、時間が止まったんだと本気で信じられただろう。
ヒナのおじさんが亡くなったのは、ヒナとおれが中学校に上がった年だった。病気で入院したと聞いて、おれもよく見舞いに行った。
学校の先生をしていたヒナのおじさんは、おおらかで優しくて、でも厳しいところもあって、誰に対してもまっすぐで、面倒見のいい人だった。
学校でもたくさんの生徒に慕われていたから、病室はいつもお見舞いの声で賑やかで、病室で見るおじさんもいつも笑っていた。
単純なおれはその光景を見て、いつも心配を忘れてしまっていた。何の根拠もなく、大丈夫なんだろう、と思っていた。
ヒナがどこまでを知っていたのかはわからない。わからなかった自分を今さらどれだけ悔やんでも、あの頃のおれには伝わらない。
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