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ヒナがいなくなったのは、おじさんの葬儀が終わって2週間くらいが過ぎた日のことだった。
葬儀の数日後から学校にも普段通りに登校し、心配する友達や先生に笑顔を見せていたヒナだったが、ある日の放課後、とっくに家についているはずの時間になっても帰ってこなかった。
姉貴に電話番を頼んで、おれは学校から家までの範囲をルートを変えながら走り続けた。
久しぶりに登校したヒナに、どう声を掛けたらいいのかわからず、この数日あまり話をしていなかった自分に対する呆れと苛立ちが、自分の足と身体をひたすらに動かした。
いつも、名前を呼べばすぐに返ってくるはずの声がそばにないことが恐ろしかった。
車のブレーキの音や、救急車のサイレンが響くたびにひやりとした。
気温が下がった夕方の風が喉にまとわりつき、ヒナの名前を呼ぶ声が掠れることがもどかしかった。
弱い、と思った。
おれは弱い。
ヒナに声を掛けられなかったことも、ヒナの限界を見過ごしたことも、こんなに暗く寒くなるまでにヒナを見つけられないことも、たったこれだけの距離を走ってヒナを呼ぶ声が掠れることも、自分の弱さだった。
生まれて初めて、本当に「悔しい」ということがわかった。
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