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結局ヒナを見つけたのは、通学路からかなり外れた古い貸倉庫の裏手だった。
ずっと小さな頃に、一度だけ来たことがある。2人でデタラメな地図を書いて、お菓子をリュックに詰めて、「探検」に来た場所だった。
その時にはものすごい距離を歩いてたどり着いたように感じた場所だったためか、今目にすると時間の狭間に迷い込んだ、偽物の場所のように見えた。
倉庫の裏手の、つぶれかけた段ボールやドラム缶の陰に、ヒナは座り込んでいた。
おれの足音に気づいて上げた顔は泣きつかれた子どものようで、頬にははっきりとした涙の痕と、それを隠そうと強くこすった痕があった。
その顔を見て、おれには二つのことがはっきりとわかった。
一つ目は、おれにとってヒナの笑顔がどれだけ大事かということ。
二つ目は、今のおれは、ヒナの泣き場所にすらなれないということ。
ヒナに笑ってほしかった。でも、心から笑えないのなら、おれの前でちゃんと泣いてほしかった。
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