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師範は目の前に立ったおれを見下ろし、はっきりと顔をしかめた。
「何しに戻ってきた。」
いつも以上にドスのきいた地を這うような声で、まっすぐにおれを見据えて訊く。
気持ちはわからないでもないが、中学生を相手に殺気を発するのはやめてほしい。後退しそうになる脚にぐっと力を込め、なんとか踏ん張る。
「戻って来いって、言ったじゃないですか。」
「かなり前にな。ここはゲーセンじゃないんだよ。来たいときに来るって奴がいるか。」
「わかってます。今度は、たぶん本気でします。」
「・・・。」
たぶん、と言っている時点でどうなんだよお前、と師範の目が語っている。
それはそうだ。
でもおれにとってはそうとしか言いようがなかった。
「本気でする」ということが、どういうことなのかはわからない。
わかってこなかった、今までずっと。
こんないかついおっさんに睨まれ、見下ろされ、殺気を噴き出され、それでも後ろに引くまいとする、この脚にこもる力がたぶんおれの本気、なのだろう。
今はそれしかわからない。
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