Hina Side4:灯台下より隣は暗し

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「いっ!?」 変な声を上げて夕希の目が開く。咄嗟に後頭部を押さえて、夕希は目をぱちぱちさせた。何度目かの瞬きでやっと目の前にいる河野先生を捉えたらしく、不思議そうに首を傾げた。 「ええと…すみません。わかりません。」 頭をさすりながらきょとんと言う夕希の言葉に、周囲がどっと笑い声をあげる。 「あほか!寝ぼけんな!全校集会だ、とっとと前出ろ!」 河野先生が引きつった顔で怒鳴るのと、体育館の前方から空手部の顧問が夕希の名前を叫ぶのがほぼ同時だった。 「はい、はい!今行きます!」 夕希は慌てて列から出て前に走っていく。本当に昭和の漫画みたいな奴だ。賞されている「優秀な成績」のインパクトは、もはや本人に完敗している。ある意味感心しながら拍手を送っていると、下級生の女の子たちの声が聞こえてきた。 「ねぇねぇ、瀬戸先輩っておもしろいよね、すごい綺麗だし。」 「うん。しかも空手すごいしね。かっこいい。」 またか、と思った。最近よく聞くこのやり取り、このフレーズ。もう耳を疑う余地もない。でもやっぱり、嫌なわけじゃないけど落ち着かない。馴染まないというか…私って順応性がないのかなと思う。 夕希が「男の子」としてモテているのに慣れないのだ。でも、本来それで正しいはずだし、幼馴染みとしてはこんな日が来ていることを喜んであげるべきなのかもしれない。気怠い熱気に毒されたような微妙な気持ちで、舞台下で顧問に絞られている夕希を眺めた。
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