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大都市カティアにも歓楽街はある。富を得た者が欲を吐き出す場所。500年いやもっと昔からその美しい女性達はそのはけ口とされてきた。
そう、俗に娼婦などと呼ばれる彼女達。
だが、歓楽街が彼女ら与えたのは悲劇だけではなかった。女達の中で一際輝くもの達には大きな権威と富を与えた。
天上華
そう呼ばれる彼女達は誰よりも権威と富を得られるという。その中の一人、真紅のリコリスという女がいる。
「噂には聞いたことがある。歓楽街にいる娼婦で最も美しい女 。彼女の名前はレディ・リコリスと言ったかな。」
「あら、これは光栄ね。天下の闇商人様に知っていてもらえるなんて 」
湯気を立てる紅茶の向こう側で、笑みを浮かべる彼女は本当に美しい。しっとりと雨に濡れた深紅の髪がランプの光に艶やかに輝いて、深い緑の瞳が楽しげに煌めく。整った形の真っ赤な唇は艶めいた笑みを形作っていた。
だからこそ疑問だ。
カラダを人形にする者は確かに数人いた。だが彼らの目的は、確か、後ろ暗い影を引きずるものだったはずだ。
例えば、雲隠れとかそういった類の。
「かの有名な貴女が何故そう願うのか疑問なだけだよ 」
ただ単純に興味がわいただけさ。
そう言ってリュシルは笑う。単なる、闇商人の道楽さ、教えたくないなら構わない。そう言って手をひらひらと揺らして続ける。
「天上華を聞いたことが無い裏の者はいないだろうさ。数多くの大物に愛された正真正銘の絶世の美女。その中の一人真紅のリコリス 」
真紅のリコリス。顔や体にメスを入れて美しく変えたり、裏ではもっと恐ろしいことにも手を出しているなどという噂が多いこの業界の中でも数少ない天然物といわれる一人だという。
だからこそ、数多の権力者や富豪は彼女の寵愛を求めた。
「生まれつきの美貌も、名声も、富も、貴女は全てを手に入れたはず。だがそれら全てを投げ打ってでも禁忌に手を出そうとする。」
「あら、商人さんもとんだ悪趣味ね。まあ、別に隠すようなことはないから教えてあげる 」
ワタシはね、永遠が欲しいのよ。そう、例えそれが悪魔に魂を売るような行いであっても。
囁いた彼女の瞳はどこか危うげに煌めいた。
「そうか 」
そう返したリュシルの後ろでファルシュただ静かに立っていた。
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