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クラウン人形販売会社
そう呼ばれる会社があるらしい。
そこは、昼間は優秀な人工知能搭載機械や演劇用の精巧な人型人形を製造・販売しているらしい。それらを売りさばくその手の者たちにはそこそこ名の知れた老舗なのだという。
だが、噂はそれだけではなかった。
人知れず誰かが囁く噂ともいえぬほどひっそりと誰かが誰かへとつないだ眉唾物のような話だ。きっと、正気の輩が聞いたら嘘だろうと一笑するようなくだらない噂。されど、どこか真実味を帯びた不思議な話。
真夜中の2時に都市郊外にある会社の倉庫の裏口を三回たたくと、そこには、自ら話し、笑い、泣く、禁忌の人形たちを売る闇人形技師がいるという。彼らは、どんな性格のどんな姿かたちの人形も報酬さえあれどんな人形でも創ってくれるのだという。
何時もなら笑い飛ばしていた、くだらない噂。
しかし、その男はその噂に飛びついた。藁にもすがる思いだったのだ。
―――もし、もしその噂が真実なら。
もし、願い通りのモノが手に入るのだとしたら
きっと、私は命も惜しくない。―――――――
そして今宵、だれもが深い眠りにつきしんと静まり返ったその場所で、男は三度震える手で門を叩くのだった。少し間があって、門がぎいいと音をたててゆっくりと開く。そして若い男と少女の声が男の耳に届く。
「やあ、お客さん、いらっしゃい」
「ようこそ、人ノ形屋へ」
開けられたドアの向こうにいたのは、薄暗い中淡い光を放つランプを持った、柔らかな笑みを浮かべた端正な顔立ちの青年と、今時流行らないメイド服を着た銀髪の少女だった。闇商人という言葉が似つかわしくないほど穏やかな二人に男はすこしとまどう。
そんな男を傍目に青年は男の向かって大仰に一礼すると話を続けた。
「やあやあ、ようこそいらっしゃいました。悪いね、規則で明かりはあまり大きくできないんだ。さあさあ、そこに立ってないでこちらにいらっしゃいな。久方ぶりの客だからねえ、温かい紅茶とお菓子を用意させてもらったよ」
「あ………ああ。頼む」
「では、ファルシュ」
「かしこまりました。お客様、こちらへどうぞ」
そう言って無表情に一礼した少女――ファルシュ――の後ろを男は呆然と追いかけてゆく。
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