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「男はいっていました。『家族を……家族が欲しいんだ』と。確かに、私たちの人格プログラムは正確ですが、片やプログラムに従う人形、片や人間。家族とは互いを愛し合う夫婦とその血縁者からなる団体だと学びました。それでは… 」
「そうだねえ。あのお客さん。気づいていたのかねえ」
リュシルは目を細めて想いを馳せる。
同じ容姿
同じ性格
同じ行動
だが、そこには決定的な違いがある。
彼らは、決してほんものにはなれないのだから。
優しい、優しい、夢のような家族ごっこ。
けれど、きっとそれは永遠に続きはしないだろう。
良くも悪くも人は変わる。人形たちも人格プログラムがあるのだから変わってゆく。
真綿にくるまれたような【取り戻せた】優しい家族との生活。きっとその裏で男は何度も絶望する。これが偽りだ知っているから。何度も絶望し、何度も優しさに救われ、そしてまた絶望する。
そのあと男は何を思うだろうか。
それを見て人形たちは、何を想い、どう変わるだろうか。
「再び起き上がれるのか、それとも…。まあ、どちらにせよ見ものだねえ」
「なにが面白いのか、私には皆目見当が付きませんが。まあ、私も相伴に預からせてもらいます」
そういって、またこてりと首を傾げた少女の様子に青年は口角を上げて笑う。
そして、空虚な人形が並ふ通路を一瞥していうのだ。
「さて、つぎのお客さんは誰だろうねえ」と。
これは、ただの噂だ。
町はずれにあるクラウン人形販売会社。
真夜中の2時に会社の倉庫の門を三回たたくんだ。
きっと、不思議な青年と美しいメイドの少女が出迎えてくれるだろう。
そこで売られているのは精巧な人形。彼らはキミが望んだ容姿、望んだ性格で素晴らしい人形を提供してくれるだろう。
だが、わすれてはいけないよ。どんなに手に入れた人形が人に近かろうと、それは只の人形だ。もし、それを忘れてしまえば……きっと後悔する。 と。
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