case1 リコリスの女

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人と機械が戦った反逆戦争の後、国家が崩壊。人々は都市を一単位として独立して動くようになった。 都市の中でも一際人が集まる都市が幾つかある。 軍事都市 シュパーガ 穀倉都市 華鷹 独立都市 東 商業都市 マチリエ そして、技術都市 カティエ 独立都市カティエ。そこは人形と人が行き交う街。 ずっとずっと昔から守られてきた美しい石造りの街並みは反逆戦争を生き残り、多くの観光客を引き寄せた。 “技術都市”などと豪語されている割に、この古い街並みが愛され保護されているというのはなかなかに皮肉な話だと思うのはリュシルが捻くれ者だから何だろうか。 そんなこの街にはおしゃれなバーが幾つかある。 とりわけ、このlonely L という酒場は仕事がない日によく来る行きつけだ。 特に主な労働源が人形となった今では珍しい人間のバーテンダーが作ってくれるカクテルは格別だ。 琥珀色の液体がグラスの中で揺らめく。 見事な球状の氷がからんと涼やかな音を響かせた。 「で、レディ・リコリス。調子はどうだい?」 酒を一口味わって、隣に座る妖艶な赤毛の美女に声をかける。彼女は艶めいた仕草で肩を竦めて笑う。 「特に変わってないわ。いつも通りって感じかしらね。あ、マスター、ワタシにウィスキー ロックで 」 「畏まりました 」 老いた紳士が静かに一礼をする。隣に置かれたグラスをぼうっと見つめながら彼女はつぶやく。 「ワタシは美しいのが好き。だから美しいままでいるためには何でもやるわ 」 「そうか... 」 「ええ。だからこれでいいのよ 」 ーーーそう、例えそれが悪魔に魂を売るような行いであっても。 いつか、彼女と出会った時の会話がふと聞こえた気がした。
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