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助かった。何がとは言えないが。
少し不服そうな彼女が、他にも試したいことがあったのに、などと呟いたのはきっと気の所為だろう。
そう思ってリュシルがほうっと息を吐いた瞬間だった。
ドアノッカーが3度叩かれた。
ファルシューーー美貌の助手は静かにランプに火を灯し、リュシルは佇まいを整える。
「さて、茶番はこれくらいにして仕事と行こうか 」
「ええ、そうですね 」
リュシルにとっても、こんな日に沢山の人形が吊るされた廊下を歩くのは億劫だ。だって彼らは本当に眠っているように見えるのだから。
けれども
「仕方がないのさ。仕事、だからねえ。」
後ろの冥土服の助手は何処か呆れた風にこちらを見つめるのは気のせいだろう。
オイルライターがカチリと鳴って新しい煙草に火がつく。
燻らせた紫煙はやはりいつもより白かった。
ーーーーーーーーーーーーー
美貌の助手が静かに扉に手をかけた。
古びた門がぎいっと音を立ててゆっくりと開く。
空いた隙間から見えたのは身体をマントで覆い隠しフードを深く被った小柄な人。
「やあ、お客さん、いらっしゃい」
「ようこそ、人ノ形屋へ」
何時ものように、笑みを浮かべて客を迎える。
ただ、それだけのはずだったのだが、今回は一風変わったお客らしく気づかれない程度に目を細めた。
「やあやあ、ようこそいらっしゃいました。悪いね、規則で明かりはあまり大きくできないんだ。さあさあ、そこに立ってないでこちらにいらっしゃいな。久方ぶりの客だからねえ、温かい紅茶とお菓子を用意させてもらったよ」
いつも通りの台詞と笑みという仮面をかぶって客人に目を向ける。
運が良いのか悪いのか。閉まる扉の隙間をすり抜けて風が舞い踊る。その拍子にフードが捲れた。
そこに立っていたのは真紅を纏った目を見張るような美しい女。
彼女は、笑みを浮かべて言う、あら、噂は本当だったのね、と。
「ワタシのカラダを人形にしてちょうだい 」
唐突に彼女はそう言って花のように笑った。
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