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はればれとした、春の青空。
海にむかって、閑静な住宅地が広がっていく。
青々とした海のむこうには、夏でも雪がきえない大山脈がみえる。
霊峰ともよばれるあの姿があらわれるのは、完全な晴れの日ではだめだ。
少し雲があり、太陽の光が弱まった日が見えやすい。
そのきりりとした鋭い峰。元気な緑の山肌と、雪のコントラスト。
僕の家は、住宅街より3階ほど高い、マンションの最上階。
ここから見えるすがすがしい景色が、僕は大好きだ。
でも僕の心は、ちっともすがすがしくない。
勉強机で肘をついて頭をささえ、心にモヤモヤを抱えたまま、ボーっとするだけだ。
あ、ランドセルに昨日の宿題が入ったままだった。
……もし、この宿題を忘れたら……。
僕ら、5年2組の担任は太田 慧先生。
剣道の達人で、顔の左半分や全身にあるやけどの跡がある。
すごく迫力のある人だ。
あの人、念をおすときはフルネームでよぶ。
『高橋 清治! 』
でも、なんだか、どうでもいい……。
ふと気がついた。
あの美しい山脈の姿をぶち壊す、赤い点がある。
ねえ、ユルキャラって信じる?
風にゆられてゆっくりフワフワ、こっちへ向かってくる。
……まちがいない。
まん丸のおなかに、短い首。
くっついた頭には、前につきでた長いアゴ。
胴体から飛びだす短い足は4本。その先には5本の鋭いツメ。
そして全長2メートルほどの半分は、長くて太いしっぽ。
ワニのような姿だけど、違うところもある。
全身をつつむのは、フワフワしたぬいぐるみの様な毛。
ネコのような耳。
そして背中からのびた二枚の、白鳥のような羽。
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