誕生

3/3
11人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ
病室に戻ると、久志が言った。 「窓の外を見て」 由香が外を見ると、雪が降っていた。 「雪だね」 「うん。覚えてる?去年の大雪の日。あれ、ちょうど一年前の今日だよ」 「え。ほんとだ。また同じ日に雪が降ったんだね」 「うん。あの子の誕生日と一緒だね。ほら、あの時車に乗せてあげた男の子」 「あ!確か、14歳の誕生日って言ってたね。今日15歳になるんだね。元気かな」 「そうだな。なんだか縁がありそうな気がする。また会えるかもな。」 「そうだね。将太に似てたし」 二人があの少年の話をしたのは、あの日以来初めてだった。 息子は、凜久(りく)と名付けた。 凜という字は、りりしいという意味で使われることが多いけど、実は、すごく寒い、という意味の冬の漢字だ。 『凜とした空気』というと、寒くて張りつめた空気という意味で、雪の日の朝に生まれた息子に相応しい字だと思った。 久志から一文字取って、凜久。 小さな手や足をくすぐりながら、何度も呼んだ。 由香は、幸せってこういうことなんだな、と毎日思いながら 一生懸命、凜久を育てた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!