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病室に戻ると、久志が言った。
「窓の外を見て」
由香が外を見ると、雪が降っていた。
「雪だね」
「うん。覚えてる?去年の大雪の日。あれ、ちょうど一年前の今日だよ」
「え。ほんとだ。また同じ日に雪が降ったんだね」
「うん。あの子の誕生日と一緒だね。ほら、あの時車に乗せてあげた男の子」
「あ!確か、14歳の誕生日って言ってたね。今日15歳になるんだね。元気かな」
「そうだな。なんだか縁がありそうな気がする。また会えるかもな。」
「そうだね。将太に似てたし」
二人があの少年の話をしたのは、あの日以来初めてだった。
息子は、凜久(りく)と名付けた。
凜という字は、りりしいという意味で使われることが多いけど、実は、すごく寒い、という意味の冬の漢字だ。
『凜とした空気』というと、寒くて張りつめた空気という意味で、雪の日の朝に生まれた息子に相応しい字だと思った。
久志から一文字取って、凜久。
小さな手や足をくすぐりながら、何度も呼んだ。
由香は、幸せってこういうことなんだな、と毎日思いながら
一生懸命、凜久を育てた。
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