慟哭

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 凜久は、大きな怪我や病気をすることもなく、すくすくと育った。 凜久が小学校に上がる時、賃貸のマンションを出て、一戸建てを買うことにした。 由香は以前働いていた病院に復職するつもりでいたので、病院の近くで物件を探した。 高島町の、新築の家が12軒ほど並ぶ区画を見に行った。 凜久が遊べる庭があって、近くに大きい公園があって、病院にも消防署にも通勤しやすいこと。 この物件は、その条件を全てかなえていた。 引越してすぐに、凜久は小学校に入学した。 そして、凜久が10歳になったのを機に、由香は元の職場である病院に復帰した。 初出勤の日、病院の前からバスに乗って、最寄りのバス停で降りた。 その時、ふいにあの大雪の日のことを思い出した。 あの男の子の、お母さんが待っていたバス停は、ここじゃなかった? あの時、由香は車の中からこのバス停を見た。 あたりは一面雪で真っ白だったので、今とは景色が違う。 でも、確かにこの場所だ。 あの子に家の場所を聞いたとき、『高倉町』と言っていた。 これは、果たして偶然なんだろうか? 同じ町に住んでいる、同じ誕生日の男の子。 でも、凜久が10歳ということは、あの子はもう25歳。 立派な大人だ。 すれ違ったとしても、気付かないだろう。
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