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「それより玉子焼きだよー。あおくん嫌いなんでしょ?」
「あー、玉子焼きな。嫌いってほどじゃないんだけど」
「子供の頃は食べてたし、栄養あるし美味しいのに、何で食べてくれないんだろうってずっと悩んでたよ」
「うん、そっか」
「厚焼き卵の研究から始まって、海苔巻いたり、パセリ混ぜたり、スクランブルにしたりいり卵にしたり。死ぬほど試食させられたんだからね」
「まじかー。なんかごめん」
「ほんとにさぁ。お姉ちゃん、目覚まし時計三個もセットしてたんだよ。毎朝五時に叩き起こされて、キッチン占領されて。だけど困ったことに本人は本当に楽しそうだったから、私もママも何も言えなかった」
「え…」
「お姉ちゃんは毎日あおくんのことばっかりだった。実の妹の私より、いつもあおくんだった」
「ナツ…」
そのことは、僕もずっと不思議に思っていた。
ハルはどうして僕にそこまでしてくれるんだろう。
何の見返りも求めず、こんなに尽くしてくれるんだろう。
だけど僕はやっと思い出したんだ。
海でハルを捕まえて砂浜に倒れ込んだ後、気を失っている間に見た長い長い夢。
それは自分が声を取り戻した瞬間のことと。
ハルが「碧樹のママになる」と宣言した時のことをを思い出させてくれた。
その約束をハルはずっと頑なに守ってくれていたんだ。
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