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「ナツに言われるまで知らなかったよ。ハルがそんなに玉子焼きにこだわっていたこと」
「うん…。どうしたら碧樹のお母さんの味に近づけるのか、ずっと悩んでたけど碧樹が求めているのはそういうことじゃなかったんだね」
そう言ったハルの顔は、どこか晴れやかだった。
結局、今日ハルが作って来た玉子焼きは、僕が全部たいらげてしまった。
「今思うと、あれは最後の抵抗だったのかもな」
と僕がつぶやくと「え?何が?」とハルが不思議そうに言った。
「何でもない!エビフライいただきまーす!」
以前よりもありがたみが増したハルのお弁当を、僕は堪能した。
「ごちそうさま!」
「はい、温かいコーヒー」
水色のポットからカップに注がれたコーヒーは、湯気が出るほど温かくて、その甘さとミルクの配合が僕にちょうど良かった。
本当に、どうして僕は気付かなかったんだろう。
今までハルが僕にしてくれたあらゆることを、全て当たり前に思ってきたけどそうじゃなかった。
ハルは僕の為にずっと頑張ってきてくれたんだ。
十七年生きてきたうちの十年近くをハルが支えてくれていた。
もしもあのままハルを失ってしまったら、僕の体を形成している成分の半分以上を失っていたような気がする。
そして心のダメージは、多分それ以上。
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