残した留守電を貴方に

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僕は、忘れない。 『何、なんかいい事あったの?』 『…審査』 君と笑い合った日々を。 『通りました!』 君の溢れそうな笑顔を。 その日、彼女はいつにも増して嬉しそうだった。 そんな様子を見ると、こちらまで嬉しくなる。 『えぇっ、すごいじゃん。おめでとう!』 堪らず向けた両手に、背の低い彼女は小さくジャンプしてハイタッチに応えた。 『えへへ、ありがとう。それから別の音源を持って行っても良くなったんだけど、パソコンが壊れちゃって。音源は、奇跡的にCDに焼いてたから、明日持ってかなきゃなんだよー。』 自身の不運を嘆く彼女だが、笑顔を絶やすことはなかった。 『それは大変だなぁ、遠いのか?』 『電車とバスと徒歩かなぁ…。でもそんなに遠い訳じゃなくて』 一生懸命話している姿を毎日見られる事が、僕にとっての小さな幸せだった。 『あっ、そうだ、私の作った曲ここに入れてるの、貸したげる。』 何とも得意げにポケットから出した白の音楽プレーヤーを差し出され、多少戸惑いながらもそれを受け取る。 『えっ、あぁ、後で聞いとく。』 『えぇ!今聞いてよ!感想聞きたい!』 『馬鹿、もう講義始まるだろ。』 一曲丸々を聞けるような時間はもう残っていなかった。 彼女も僕につられて時計を見て悟ったらしく、残念そうな声を上げる。 『じゃあ…、今日電話するから!明日まで心がもたないんだよ、自信が欲しいの。』 『分かった、家帰ってからだからな。…あ、先に寝るなよ。』 『分かってるって!』 彼女の笑顔は僕にはやはり、何よりも輝いて見えた。
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