1人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は、忘れない。
『何、なんかいい事あったの?』
『…審査』
君と笑い合った日々を。
『通りました!』
君の溢れそうな笑顔を。
その日、彼女はいつにも増して嬉しそうだった。
そんな様子を見ると、こちらまで嬉しくなる。
『えぇっ、すごいじゃん。おめでとう!』
堪らず向けた両手に、背の低い彼女は小さくジャンプしてハイタッチに応えた。
『えへへ、ありがとう。それから別の音源を持って行っても良くなったんだけど、パソコンが壊れちゃって。音源は、奇跡的にCDに焼いてたから、明日持ってかなきゃなんだよー。』
自身の不運を嘆く彼女だが、笑顔を絶やすことはなかった。
『それは大変だなぁ、遠いのか?』
『電車とバスと徒歩かなぁ…。でもそんなに遠い訳じゃなくて』
一生懸命話している姿を毎日見られる事が、僕にとっての小さな幸せだった。
『あっ、そうだ、私の作った曲ここに入れてるの、貸したげる。』
何とも得意げにポケットから出した白の音楽プレーヤーを差し出され、多少戸惑いながらもそれを受け取る。
『えっ、あぁ、後で聞いとく。』
『えぇ!今聞いてよ!感想聞きたい!』
『馬鹿、もう講義始まるだろ。』
一曲丸々を聞けるような時間はもう残っていなかった。
彼女も僕につられて時計を見て悟ったらしく、残念そうな声を上げる。
『じゃあ…、今日電話するから!明日まで心がもたないんだよ、自信が欲しいの。』
『分かった、家帰ってからだからな。…あ、先に寝るなよ。』
『分かってるって!』
彼女の笑顔は僕にはやはり、何よりも輝いて見えた。
最初のコメントを投稿しよう!